●ファーマネクスト 2005.10.10号 編集長インタビューに掲載されました
(じほう社) 28〜29ページ
●「異」と接し、失敗する勇気を持つことが大切
株式会社フォスターワン代表取締役社長
坂上仁志氏
薬剤師の派遣会社を立ち上げた経験を持ち、薬剤師の就職・採
用について具体的な実務経験とノウハウを持つ人材・経営コン
サルタントの坂上仁志氏。「『異』と接し、失敗する勇気を持
つことが薬剤師のキャリア形成には欠かせない」が持論だ。
【プロフィール】
1962年生まれ。埼玉県出身。一橋大学社会学部(心理学専攻)
卒業後、新日鉄、リクルート、日本調剤ファルマスタッフ専務
などを経て、2005年に人材・経営コンサルティング会社、フォ
スターワンを設立。
−坂上さんは薬剤師の派遣事業を立ち上げた経験をお持ちです
ね。薬剤師に対してどのようなイメージをお持ちですか。
坂上 薬剤師さんは22万人いますが、理系で優秀な方が多いで
すね。普通の職種が男性が多い中で、6対4で女性の比率が多
いのも特徴のひとつです。そして大学4年間で
学費が1000万円前後
かかるでしょうから、家庭が裕福だという印象があります。
そして、
家族や親族の中に医師や看護師、薬剤師など医薬に関係の
ある職種
の方が多い。
また、
小さいころに病院に行き、その時に白衣にあこがれたとか、自
分が少しぜんそくだったとか、ご自身の体験や経験から医薬に
関係する職業を目指したという方も多いという印象があります
。
−薬剤師は社会性がないといわれる人もいますが。
坂上 多くの薬局経営者や薬剤師さんと接点を持つ方がよく薬
剤師さんは社会性がないという表現をされます。一面ではイエ
スですが、それは「素養」の問題ではなく「環境」の問題です
薬剤師さん側に立ってみると、それだけいい家柄に育ち、大学4年間は、
きちんと勉強なり、研究をされてきたわけですから、なかなか
社会との接点を持ちづらいという背景があるんだと思います。
私みたいに大学時代は遊びました、という文系の
学生とは勉強量が違うわけです
そして、さらに社会人になって7割ぐらいの方が病院または調
剤薬局に勤めていらっしゃると思いますが、その方々の毎日と
いうのは朝から晩まで病院、
あるいは調剤薬局という限られた空間の中で生活されているこ
とが多いわけですから、なかなか一般の方々との接点が持ちづ
らく、社会性がないと見られがちなのではないでしょうか。し
かし、より多くの社会との接点を持つこと
は、人としての成長には必要なのではないかなと思います。
−新卒で調剤薬局から働いてきた薬剤師のモデルがないことに
ついてはどうお考えですか。
坂上 医薬分業が起こり、調剤薬局ができ、そして分業が急速
に進展する中で、出店を急ぐというのは経営者の当然の役割で
あり、目標です。一方、就業者である薬剤師については、
調剤薬局薬剤師のキャリアを真剣に考える
機会が少なかったと思うんです。
調剤薬局薬剤師のキャリアというのは、薬剤師さん自身と、雇
用主である薬局経営者が、これからお互いに考えていかなけれ
ばいけない
重要なテーマだと思います。
また、薬局経営者には、社会性のある薬剤師を育成する環境を
整える、社会的責任も出てき始めているのかもしれません
−では、薬局薬剤師はどうやってキャリアをつくっていったら
いいでしょう。
坂上
日本人は
模倣してやっていくのが上手といわれてい
ましたが、一方で日本の中にはまったく人がやっていない
やり方で
創造的な仕事を
されている方もたくさんいます。
個人のキャリア形成という面で言えば、調剤薬局の薬剤師も、
IT業界も、まねをする人さえいないように、これから先の道
筋がなく、自分で作っていかざるを得ないわけです
その時にどうするのか?
ひとつの
結論は、「異」と接し、失敗する勇気を持つことだと思います
。
失敗する勇気と申し上げたのは、安全であるということが一番
危険なんだ、ということです
失敗しないでいると、その時はいいんですが、失敗は必ずある
ものですからあとで苦労するわけです
答えが用意されていない世界に足を踏み入れたわけですから、
失敗はあるけれども
勇気を持ってトライしていくというのはすごく大事なことだと
思うんです。
プロゴルファーのジャック・ニクラウスは世界で一番、2位が
多かったプレイヤーだったそうです
タイガー・ウッズも同じように実は2位で終わることがすごく
多いんですね。では、それが失敗だったかと言うと必ずしも失
敗ではないんです。優勝しなかったのは事実ですが、逆にそこ
から学ぶものが多い。
トライをする勇気みたいなものです。
タイガー・ウッズのスイングというのは、毎回同じようなスイ
ングをやり続けるという正確性を保ちながら、コースマネジメ
ント、つまりコースに対してどのようにやっていくのかという
部分ではトライをし、失敗をし、そこから学び、成長していっ
ているんです。例えば、調剤薬局の現場でも、
正確な調剤をしながらも
服薬指導をするときに毎回自分なりの工夫をしていくというこ
ともできるでしょう。
−「異」と接するということについてもう少し詳しく教えてい
ただけますか。
坂上 異性と出会うことも「異」と接することですし、ボラン
ティアをすることも、
仕事以外の場で
お年寄りや子どもと接することも「異」
と接することです。また転職や転勤という「異」との接し方も
あります。無理に転職をする必要はありませんが、大手調剤薬
局チェーンのアインファーマシーズさんのようにしっかりとし
た教育をしているところもありますから、そういうところに勤
務している薬剤師さんは
一つの選択肢として
転勤をしてみるというのもいいでしょう。せっかくチェーン薬
局に勤務しているわけですから、
2年間くらい、行った事のない土地で一人で生活してみる
のも自立の為に良いと思います。
しかし、大手の調剤薬局に勤務している薬剤師さんは全国でも5000
人程度で、そういう環境にない薬剤師さんもたくさんいます。
ただ、年商20億円前後の中堅チェーンでも地域で人を育ててい
る会社もあります。
朝の掃除や、社外のセミナー参加ができ、
教育水準が高く、財務諸表を勉強させてい
るところもありますから、そういう
会社を見てみるのもいい経験かと思います