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経営理念の浸透のさせ方 第2回 経営理念を浸透するための五つの重要なポイント

第2回 経営理念を浸透するための五つの重要なポイント

 

経営理念を浸透するためには、以下に挙げる五つのポイントが重要である。

経営理念が浸透しないことを悩んでいるなら、以下のポイントをチェックしてみてほしい。


■経営理念を浸透するための五つの重要なポイント


① 物語(ストーリー)を伝えること

 

経営理念を浸透させていく上で大切なのは、物語(ストーリー)があることである。

経営理念を作るに当たって、こういうふうに思った、こうしたいと思った、こうしていくべきだと思った――というように、その背景には、ある具体的な事柄や誰かの体験、または会社の仕事の中での出来事があるはずである。

 

なるべく、その経営理念を作った背景、物語をどこかに書き留めておくといい。

そして、毎年入ってくる新入社員にもその物語を伝えていくことが大切なのだ。

 

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参考1:「物語」を伝える 京セラの「フィロソフィ」

例えば、市販されている『京セラフィロソフィ』(稲盛和夫著 サンマーク出版)を参考にしてみてほしい

京セラではこんな出来事があったから、こういった考えに至ったという物語がふんだんに入っているため、「なるほど!」という高い納得感がある。

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② 繰り返し、繰り返し、繰り返すこと

 

経営理念を浸透させていく上で、とにかく時間が大切であるということは前回述べた。

これはつまり、「繰り返し、繰り返し、繰り返す」ことである。

 

毎日、毎週、毎月、毎クオーター(3カ月ごと)、毎半期(6カ月ごと)、毎年――といったように、定期的に経営理念を学ぶ場を作り、経営理念を話している、考えている時間を作ることが大切となる。

 

1回やってダメなら10回、10回やってダメなら100回、100回やってダメなら1000回、繰り返すことである。
「何度言ったら分かるんだ!」「まだ分からないのか !?」と思うことがあるかもしれない。

 

しかし、人間は1日や2日で変われるものではない。

右利きを左利きに変えるのでも、大変な苦労が必要だ。

 

それと同じで、経営理念を浸透させるには少なくとも3年はかかると思って、何度も、何度も、何度も、何度も、繰り返す。

これでもか、これでもか、これでもか、と繰り返す“やり続ける力”と忍耐力が必要となる。

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参考2:著名ヴァイオリニストを育てた鈴木慎一氏の「徹底した反復」

世界中に著名なヴァイオリニストを輩出したスズキメソードの鈴木慎一氏は、3歳児にヴァイオリンを演奏させたことでも有名だ(ヨーヨーマ、葉加瀬太郎、さだまさし、田中康夫!も、彼のレッスンの経験者である)

 

鈴木氏の教え方の基本は、「正しいことを、繰り返し、繰り返し、繰り返すこと」――つまり、正しいことの反復こそが偉大な成功をもたらすとした。

実際に、著名なヴァイオリニストをたくさん輩出したことがそのことの何よりの証(あかし)といえる。

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③「読み、書き、算盤(そろばん)、話す、聞く」が大切

 

昔から日本では「読み、書き、算盤、話す、聞く」という言葉が使われてきた。

江戸時代の寺子屋では、小学生くらいの子どもが論語を素読するということもあったようだ。

 

同じように経営理念を浸透させていくに当たっては、読むこと、書くこと、話すこと、聞くことという、それぞれの行為を繰り返していくことが効果的だ。

それはつまり脳を活性化させることにもつながる。

 

脳科学によると、読み、書き、話す、聞くという行為は、それぞれ脳の違う場所を使うという。

したがってその四つの行為を組み合わせることが、経営理念の浸透を図る上での効果的なポイントとなる。

 

そこで、(株)フォスターワンがトレーニング、研修をする上で活用する、フォスターワン方式をお勧めしている。

れは、いわば“スーパーアクティブラーニング”であるため、ただ人の話を聞く場合の数倍、脳を活性化させることができる。

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具体的には、AさんとBさんの2人で1組になり、1分間サイクルでトレーニングをしていく。

フォスターワン方式で経営理念を学ぶのであれば、

 

1. まず初めに全員で経営理念を唱和する(1〜2分程度)

2. 各自が1分間で自分は経営理念に関して何を思い、どうしたいと思ったかを書く

 

3. AさんがBさんに1分間、自分の意見を述べる。

この間Bさんは1分間、Aさんの話を集中して聞くだけ

 

4. 次に交代して、Bさんが1分間自分の意見を述べる。

同じようにAさんは1分間、Bさんの話を集中して聞くだけ

 

5. 各自、いま話したことをそのまま1分間で書く

6. そして、小集団でシェア(発表)する――といったプロセスをたどることが非常に効果的だ。

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例えば、自分の部署の10人の中で、誰か1人が意見をシェアする場合と比較してみよう。

フォスターワン方式を活用すれば、

10人の部署であっても全員での唱和が1分、書く時間が1分、2人1組で話す時間が2分、書く時間が1分、シェアする時間が1分――つまり、合計6分しかかからない。

 

一方、よくあるのは、上司が10分も20分も経営理念を語り、説教をするだけ、メンバーはそれを聞くだけ、といったパターンだ。

しかし、これでは大半の参加者は聞くことだけにしか脳を使わないので、脳が活性化されず、受動型で「つまらない」。

 

そうではなく、「全員参加型」で「読み」、「書き」、「話し」、「聞く」ことを1分間サイクルで行えば、脳が活性化され、自分の考えを毎日まとめていくことが可能となる。
これなら能動型で「楽しい」。

もしやってないなら、このフォスターワン方法を使うことをお勧めしたい。
朝礼の場が活性化され、100%楽しくなる!ことを保証する。

 


④ 経営理念について毎日行うべきこと(毎日情報に触れることが大切)

 

「読む」場合には、社内の掲示板などを使うったり、部内でメールを発信する、メルマガを誰かが書く、イントラネット上に誰かが書く、SNSを使う――などといった方法がある。

しかし、ただ「読む」だけであれば、「へーっ」という程度で終わってしまい、自分自身のものになりにくいところもある。

 

前回ご紹介した学びの7段階「知る」「わかる」「行う」「続ける」「できる」「教える」「成長する」における、一番最初の「知る」というレベルにとどまってしまう。

それでは、本当に「わかる」というところまでいかない。

つまり、ただ「読む」だけだと浸透の度合いが低くなる。 


そこで、メールで自分の意見を書く、レポートを書く、提出物を出すなどの行為をする必要がある。

このプロセスを踏むとと、自分の考えを何らかのかたちで書き出さなければならなくなるので、自分の考えをまとめることができ、より経営理念が自分自身のものとなっていく。

 

「話す」場合は、朝会や会議、勉強会、合宿などで「話す」場を作ることである。

人から聞くことや読むことだけではなく、自分が経営理念について「話す」場を持つことが大切といえる。

「聞く」場合は、CDやiPod、DVD、あるいはYouTube上の動画で、会社の中でも移動中でも聞くことができる

 

これらの「読む」「書く」「話す」「聞く」を組み合わせて、なるべく多く、毎日、経営理念に接する時間を持つことが大切だといえる。

もちろん、急にすべてを急にやろうとすれば社内から反発があると予想されるので、ゆるやかに段階的に、しかし、着実に進めていくことが重要である。

 


⑤ どれだけ時間を使うのか?

前回もお話ししたように、「経営理念の浸透にどれだけ時間を使うのか」ということが大切になっていく。
せめて、毎日10分、月に1時間は経営理念についてだけ「読み」「書き」「話し」「聞く」時間を全社で持ちたい。


経営理念の浸透に向けた、具体的な事例①〜⑤
以下に、より具体的な経営理念浸透の進め方の事例をご紹介する。

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事例① 朝会(1)【1分間の唱和】

 

毎日の朝会の中で、全員で経営理念を1分間だけ唱和する。

しかし、これでは年間240日× 1分=240分= 4時間(1年8760時間の0.04%程度)となってしまう。

もちろん、やらないよりはいいのだが、朝会で1分間唱和をするだけで経営理念を浸透させようとすること自体に無理があるといえる。


事例② 朝会(2)【5分間の輪読】

先程の1分の唱和を、もう少し時間を長くして5分間にしたものである(年間で20時間、1年8760時間の0.22%程度となる)。

それぞれの状況に応じて3分や5分、10分と時間を延ばしていく方法がある。


事例③ 朝会(3)【10分以上の経営理念をベースとした体験発表と事例の共有】

このやり方になると徐々に経営理念の浸透度合いが高くなってくる。

具体的には、毎朝、経営理念を唱和し、昨日会社で起こった出来事、自分が体験した事柄を、経営理念を基に「私はこういうふうに判断をした」

「こういう行動をした」とそれぞれのチーム、小集団(例えば5人から10人ぐらいのメンバー)の中で共有をする。

それによって、経営理念は具体的な事柄として、体験として社員それぞれの意識の中に入っていく

実はこうした体験の共有によって社員が経営理念に目覚めることが多い。


事例④ 会議の場【すべての会議の初めに経営理念を読む】

会議が始まる前に、経営理念の一部を読み(全部ではなくてよい)、その経営理念に即した会議ができるように進めていくといった方法である。

なんとなく始まり、なんとなく終わってしまう会議が多い中で、経営理念という自分の会社が大切にしているものを初めに全員で認識をすることによって、その会議の中で出る結論も、方向性が変わってくる。

経営理念を意識した会議によって、「ブレない仕事」が可能となる。

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参考3:「アメリカ建国の父」が価値観の実践のために行ったこと

 

アメリカ建国の父と言われるベンジャミン・フランクリンの「13の徳目」をご存じだろうか?

フランクリンは、自らの道徳的完成を目指して、「自分の人生にとって何が最も大切か」という価値観を13にまとめた。

 

節制、沈黙、規律、決断、節約、勤勉、誠実、正義、中庸、清潔、平静、純潔、謙虚といった「13の徳目」の中から、1週間に一つの徳を定め、それに関しては徹底的に守るようにした。

 

実は、これと同じことが、「経営理念」にも言える。

経営理念の中の一つの項目を、その日のテーマとして全社員で共有し、会議の前に確認することで、一層の浸透を図ることができる。

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事例⑤ 勉強会の開催

経営理念に関する勉強会は、部門別、階層別、部門・年齢横断の任意のグループ等、マトリクス的に開催をするとよい。

例えば、社長と幹部による経営理念の勉強会は毎週1回1時間、社長とメンバーでの経営理念の勉強会を毎月1回など行う。

横軸に時間(開催月)、縦軸に参加者の階層として社長、幹部(役員)、部長、課長、リーダー、メンバー(一般)というマトリクスを作れば、週ごと、月ごとに経営理念の勉強会がどのくらいの頻度で行われ、誰がどこに参加をしているのかということが分かるようになる。

これを全社で共有していくことで、経営理念の浸透を図っていくことが可能となる。


経営理念は日々進化させていくことが重要!

経営理念を浸透させる上で、テキストが必要であるということは前回述べた。

 

例えばキリスト教であればバイブル(聖書)があり、ユダヤ教ではタルムードという聖典がやはり存在する。

仏教には経典が存在している。

 

つまり、文字で書いてあるテキストがあることが大切であり、共通の言葉で共通の認識を持つことが必要なのである。

一方で口伝(口頭で伝えること)という方法もあるが、話した言葉はその瞬間に消えてしまうため、注意が必要だ。

 

だが、書いた文字は永遠に残る。

しかし、一度書いたものは永遠に変えなくていいわけではない。

 

ここに書いたような朝会、会議の場、勉強会をする中で、毎回“もう少しこうしたほうがいい”というところが出てくるれば、それを書き留めておい
て、修正、改善し続けていくことで、経営理念を進化させることができる。


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経営理念の浸透のさせ方 第1回 経営理念を浸透させる大前提を再確認する

経営理念の浸透のさせ方 第2回 経営理念を浸透するための五つの重要なポイント

経営理念の浸透のさせ方 第3回 さらに深く経営理念を浸透させる、とっておきの五つの方法

経営理念の浸透のさせ方 第4回 現場では理念浸透の何が問題になっているのか? 質疑応答編


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